
「AIは何ができるのか」という質問は、「どの業種で使えるか」ではなく「どの種類の作業に向くか」で考えると、途端に答えが出ます。 業種が違っても、作業の中身が同じなら向き不向きは同じだからです。この記事では、AIが安定して任せられる作業と、任せてはいけない作業を分けたうえで、自社の業務にどう線を引くかを整理します。
現場で起きていること
導入した会社で、次のような食い違いがよく起こります。
- 議事録の要約は驚くほど正確だったので信頼したところ、見積の合計金額が違っていた
- 「最新の制度を教えて」と聞いたら、もっともらしいが古い内容が返ってきた
- 自社の商品名を出して質問したら、存在しない仕様を説明された
- 文章の下書きは十分使えるのに、社内の承認ルールを聞くと的外れな答えになる
これらは別々の不具合ではなく、すべて同じ一つの理由から起きています。 そしてこの理由が分かると、どこまで任せてよいかの線は自分で引けるようになります。
なぜ「得意なこと」と「苦手なこと」が分かれるのか
現在のAI(大規模言語モデル)は、言葉と言葉のつながり方を、大量の文章から学んでいます。 そのため得意なのは「与えられた材料を、別の形に整え直す」ことです。材料が目の前にあれば、それを要約する・分類する・書き言葉に直すといった作業は非常に安定します。
一方で苦手なのは、手元に材料がない情報を答えることです。学習した時点より後の出来事、社外に出ていない自社の内部事情、そして厳密な計算。これらは「思い出す」対象がないため、AIは最ももっともらしい言葉のつながりを作って答えを埋めます。 見た目が自然なぶん、間違いに気づきにくいのが厄介な点です。
つまり境界線は、**「材料が手元にあるかどうか」**でほぼ決まります。この一点さえ押さえれば、業務ごとに毎回判断できます。

業務は、3つの工程に分けて仕分ける
仕分けは、次の3段階で進めます。

① 得意なこと ── 変換・分類・要約・叩き台
材料が揃っていれば安定して任せられる作業です。具体的には4種類あります。
- 変換:話し言葉を書き言葉に直す、メール文面を所定の報告フォーマットに移す、日本語を英語にする
- 分類:問い合わせを内容別に振り分ける、アンケートの自由記述をテーマごとにまとめる
- 要約:長い会議録や資料から要点を抜き出す、複数の資料の共通点を並べる
- 叩き台づくり:提案書の骨子、案内文の初稿、想定質問の一覧を最初に一本出す
この4つに共通するのは、正解が材料の中にすでに含まれているという点です。AIは新しい事実を持ち込むのではなく、形を変えているだけなので、精度が安定します。
② 苦手なこと ── 計算・最新情報・社内固有の事実
任せてはいけない、あるいは必ず人が検算する必要がある作業です。
- 計算:金額の集計、数量の積み上げ、期間の算出。桁が一つずれても文章としては自然に見えるため、誤りが表に出ません。
- 最新情報:法改正、制度変更、価格改定、直近の市況。AIが学習した時点以降の出来事は原理的に持っていません。
- 社内固有の事実:自社の商品仕様、取引条件、承認フロー、過去の経緯。社外に公開されていない情報は、AIの中に存在しません。
重要なのは、苦手な領域でもAIは「分かりません」と言わずに答えてしまうことです。ここを知らずに使うと、最も事故が起きます。
③ 境界の引き方
そのうえで、実務では「得意」と「苦手」がひとつの業務の中に混ざっています。だから業務単位で丸ごと任せる・任せないを決めると、必ず失敗します。
正しい進め方は、業務を工程に割ってから、工程ごとに仕分けることです。同じ「見積作成」でも、仕様書から数量を拾って表に整える工程は得意側、単価を掛けて合計を出す工程は苦手側にあります。一つの業務の中に境界線が走っているという前提に立つのが、仕分けの出発点です。
なお、苦手な領域も材料を渡せば得意側に移せる場合があります。社内資料を参照させる仕組みを用意すれば、社内固有の事実にも答えられるようになります。ただしこれは設計と費用が伴う話なので、まずは渡さずに済む形に業務を組み替えられないかから検討するのが順序です。
どこがAIの仕事で、どこからが人の仕事か
仕分けの目的は、人が、人にしかできない工程に時間を寄せることです。業務に降ろすと次のようになります。
- 不動産管理会社の入居者対応:問い合わせメールを「設備不具合」「契約更新」「近隣トラブル」に振り分け、定型的な一次返信の下書きを作るところまではAI側です。近隣トラブルの背景を電話で聞き取り、双方の落としどころを決めるのは人側です。振り分けに使っていた時間が、この対応に回ります。
- 人材紹介会社の候補者対応:職務経歴書から経験業務を抜き出し、要件と照らして一覧に整えるのはAI側です。この人が次の職場でどう伸びるか、企業側の社風と合うかを見極めるのは人側です。
- 食品卸の商談準備:過去の取引履歴と商品資料から提案書の叩き台を作るのはAI側です。先方の売場を見て、いま何が足りていないかに気づくのは人側です。
- 町工場の技術継承:熟練者の作業説明を録音から文字に起こし、手順書の形に整えるのはAI側です。なぜその力加減なのかを判断し、若手に体で教えるのは人側です。
共通しているのは、**AIに渡しているのが「材料を整える工程」**であり、**人に残しているのが「現場を見て決める工程」**だという点です。この線を引いた分だけ、人の時間は本来の仕事に戻ります。
自社の業務をどう仕分けるか
実際に仕分ける際は、業務を工程に割り、それぞれがどの区分に入るかを一つずつ当てはめていきます。Guidaでは、この当てはめを1枚で行える「業務仕分け早見表」を用意しています。 作業の種類ごとの判定基準と、判断に迷いやすい工程の扱い方をまとめたものです。
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