
AIに仕事を任せてみたものの、返ってきた文章がどこかで読んだような一般論で、そのままでは使えない——これは指示文の書き方の問題ではなく、渡している材料の問題であることがほとんどです。この記事では、なぜ材料で出力が決まるのか、どんな材料を揃えるべきかを整理します。
「悪くはないが、うちの仕事ではない」が返ってくる
導入して最初につまずくのは、たいていこの症状です。
- 提案書のたたき台を頼んだら、業界のどの会社にも当てはまる話が出てきた
- 議事録の要約を頼んだら、社内でしか通じない略語がすべて誤解釈されていた
- お客様への返信文を頼んだら、自社では絶対に使わない言い回しが混ざっていた
そして多くの場合、次にやることは「指示文を長くする」です。丁寧に、細かく、条件を足していく。それでも出力は少ししか良くならず、「AIはこの程度か」で止まってしまいます。
材料がなければ、平均値しか出てこない
理由はシンプルです。AIは渡された材料の範囲でしか具体的になれません。
材料がない状態で「提案書を書いて」と言われれば、AIができるのは世の中の平均的な提案書を再現することだけです。出てきた一般論は、AIの性能不足ではなく、判断に必要な情報が渡っていないことの正確な反映です。
ここで指示文をいくら磨いても、状況は変わりません。指示文は「何をしてほしいか」を伝えるもので、「あなたの会社はどういう会社か」を伝えるものではないからです。人間の新入社員に置き換えると分かりやすくなります。優秀な人でも、過去の資料を一切見せずに「うちらしい提案書を書いて」と言われれば、一般論しか書けません。足りないのは能力ではなく、材料です。

揃えるべき材料は4種類
材料集めは、思いつくものを片っ端から渡す作業ではありません。押さえるべき種類は決まっています。

- 過去の完成品を渡す — 実際に社内で承認された、または顧客に出して通った成果物そのものです。良し悪しの説明より、完成品を見せるほうが早く伝わります。
- 社内用語集 — 略語、製品の呼び分け、社内でしか通じない工程名。ここが揃っていないと、出力は必ずどこかで的を外します。
- 判断基準の明文化 — 「何をもって良しとするか」を言葉にしたものです。普段はベテランの頭の中にしかなく、渡されていないことに誰も気づいていない材料です。
- NG例 — 過去にやり直しになったもの、使ってはいけない表現、触れてはいけない論点。良い例と同じくらい、悪い例が出力を絞り込みます。
この4つが揃うと、同じ指示文でも出力の具体性が変わります。順番としては、指示文の改善よりも先に着手すべき工程です。
AIがやる仕事と、人がやる仕事の境界
材料を揃える作業のうち、AI側でできることと、人がやるしかないことははっきり分かれます。
AI側でできるのは、すでに文章になっているものを扱う仕事です。過去の見積書100件から共通の書式を抜き出す、議事録の山から用語の使われ方を拾う、完成品を読んで構成を分解する。ここは量が多いほどAIが向いています。
一方、人がやるしかないのは判断基準の言語化です。
- 工務店であれば、どの見積項目を丸めてよく、どこは1円単位で出すのか
- 社会保険労務士事務所であれば、顧問先にどこまで踏み込んで助言し、どこから「専門家に確認を」と引くのか
- 製造業の品質管理であれば、規格内でも出荷を止める傷の程度はどこか
これらは資料のどこにも書かれておらず、現場の人の頭の中にしかありません。 AIに渡すには、まず人が言葉にする必要があります。
材料を揃えるとは、この「人の頭の中にしかない判断」を外に出す作業です。そして一度外に出してしまえば、以降の作業量はAIが引き受けます。人が、人にしかできない判断そのものに時間を使える状態にする——材料集めの目的はここにあります。
まずどこから手をつけるか
材料の4種類は分かっても、自社のどこが欠けているのかは、一度点検してみないと分かりません。多くの場合、「過去の完成品はあるが判断基準が明文化されていない」など、特定の1つだけが抜けています。
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「AIを入れたが期待したほどではなかった」という段階の方こそ、指示文を書き直す前に材料の点検からお試しください。
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